打突動作(足と体の動き)
今まで伝えられてきたありがちな教え方
これまでによく言われてきた教え方はこんな感じだと思うが、大きな誤解をしていると思う。
・踏み込む際に、ひざを曲げて下に沈み込んではいけない
→それまで体を下から支えていた左足で、今度は体を前に大きく押し出すためには、体の構造上、いったん下に沈みこまざるを得ない。体を沈み込ませないで前に出るには、足を棒のように伸ばしたまま倒れこむしかないが、腰が引けて伸びのない打ちになってしまい、打った後の体制も崩れる。よって、下に沈み込むのは当たり前で、何の問題もない。沈み込むことでこれから打っていくことがわかってしまう、という人がいるかもしれないが、それは最初から軽くひざを曲げておいて腰の高さを一定に保てばよいだけのことである。能や狂言のすり足を見ればわかる。頭が全く上下しないのは、最初から腰を少し下げているからである。
・送り足の時、いかなる時も左足は右足を追い越してはならない
→構え合って、打ち込むまではたしかにそうだが、打った後は左足が右足を追い越してはいけない理由がない。相手の横を素早く通り抜けることが最も重要であり、(打った後は)左足が前に出ても全く問題ない。
ここでの新しい教え方
構え合ったお互いの竹刀の先が30cmずつ交差するくらいの距離(「一足一刀(いっそくいっとう)の間」と呼ぶ。別の回の「間合いについて」で詳しく説明する)から、一歩で踏み込む。(図1)
面の踏み込み方
①構えの状態から、左足に体重を乗せたまま軽く沈み込みながら、「お腹」と「右つま先」を前に出していく。つま先は軽く床を滑らせるようにする。上体の体軸はやや後ろに傾き、頭はできるだけ元の位置に残るようにがまんする。(図2)
②十分に右つま先が前に出たら、最後に左足でお腹を前に押し出し、右足に飛び乗るようにして踏み込む。この時、右足着地と同時にそれまで構えたまま我慢していた両手のこぶしを「ひだりみぎ!」の順番に前に出して面を打つ。(前回の「打突動作(手の動き)」の”小さい面打ち”参照)(図3)
最後まで頭から前に突っ込まず、上体の体軸を起こしたまま、お腹を一番前に出していくイメージを持つ。
③右足で体全体を上に引き上げ、前上方に伸びあがる。両足のかかとは床につけないようにしながら、すり足で素早く前方に進んで抜けていく。この時、左足は右足の前に出てもよい(歩み足という)(図4)
④相手の横を通過してしばらく進んだら、振り返って相手に向かって構える。(「残心」という)
自分がよいと思うより、ちょっとだけ遠くまで抜けてから振り返るのがちょうどよいくらい。
振り返るときは、相手のいる方向に素早く「クルッ」と回り、最初の右足前のすぐ打ち込める構えの状態に「ピタッ」と止まる。(別の回の「足運び」で詳しく説明する)
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
小手の踏み込み方
小手の踏み込み方は、面の時と全く違う。一足一刀の間から(図5)、右足を前に出していくまでは同じ(図6)だが、
①左足に体重乗せたまま、左足だけで「ピョン」と前に飛ぶ。ここではまだ右足には乗らず、右足は床を「パン!」と踏み鳴らすだけである。上体は起こして左足に乗ったまま前に出て相手の小手を打つ。「両足で踏み込む」と表現する人もいる。これも分かりやすい良い表現だと思う。(図7)
②相手の小手を打ったら、小手・面の要領で、もう一回踏み込む。右足を大きく右斜め前に踏み出し、体を右にさばく。体軸を右に傾けながら竹刀を左肩に担ぐようにして相手の竹刀をかわす。(図8)
③相手の竹刀をかわしたら、すぐに相手に向かって向き直り、脇にくっつくか、もしくは間を切って構えなおす(「残心」をとる)
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
胴の踏み込み方
胴の踏み込みは、またちょっと違う。
①左手を右手に寄せながら自分の肩近くを通して相手の胴を打つ。(竹刀で「ハート型」の左半分を描く感じ)
体軸は抜けたい方向(今回は右)に傾ける。(図9:横から見たところ)
②右足はやや右斜め前に踏み出す。基本打ちで相手がその場で動かない時は1時の方向、抜き胴など、相手が近づいてくる場合は2時の方向に踏み出す。(図10:前から見たところ)
③打ってからは後ろにあった左足を右斜め前に踏み出し、そのまま歩み足のすり足で相手の横をすり抜けて素早く遠くまで抜けていく。(図11:上から見たところ)
【図9】
【図10】
【図11】
以上が踏み込み動作である。次回は、打った後の振り返り方 について説明する。
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